2014年8月26日火曜日

[World News #083] 俳優マチュー・アマルリックを「発明」したアルノー・デプレシャン監督の演出術 人間味溢れるロクデナシから冷徹な悪役まで、多彩な役柄を演じ分ける俳優マチュー・アマルリック。クローネンバーグ『コズモポリス』、ポランスキー『毛皮のヴィーナス』、そして盟友デプレシャンの『Jimmy・P』と次々と才能ある監督の作品に出演する、味のあるフランス人俳優として知られています。 神出鬼没の感がある彼は、どのように俳優としてのキャリアを築いたのでしょうか? 今回は本人をして「俳優マチュー・アマルリックを発明した」と言わしめる映画監督アルノー・デプレシャンの新作、精神的苦痛を抱えるインディアンとフランス人精神分析医の友情を描いた『Jimmy・P』(13年リリース 日本公開未定)についてのインタビューから探ってみたいと思います。*1 彼がデビューしたのは17歳の時。両親の友人であったオタール・イオセリアーニの『Les favoris de la lune』(84)に出演したのをきっかけに、自身でも短編を撮り始め、 初監督・出演した短編監督作品『笑うことができない』(90)で、アルノー・デプレシャンに見出されました。*2 「アルノー(デプレシャン)は驚くべき監督で、特に俳優にとってはそうなんです。彼のせいで私は良い俳優であるという間違った評価を得て、いまだにその評価に依って暮らしているというわけです。ただし、芸術を模造する人間がそうであるように、贋作として認められるには非常に研ぎ澄まされていなければなりません。そういったわけで、私はより良くあろうとしています。」 『そして僕は恋をする』(97)では主人公を演じ、セザール賞有望若手男優賞を受賞。彼の本格的な俳優としてのキャリアが始まりました。アマルリックが演じたのは高等師範学校で哲学を修めていながら博士論文が書けず、恋に翻弄される29歳の男。皮肉屋で、だらしないところもあって、でも圧倒的に優しく魅力的なキャラクターです。アマルリックはその後もデプレシャン映画『キングス&クイーン』(04)『クリスマスストーリー』(08)でも共通点のある役柄を好演。デプレシャン監督は繊細かつ破天荒という、相反する要素が共存するアマルリックのイメージを作りあげました。一体監督はどのようにしてアマルリックからこの個性的なキャラクターを引き出したのでしょうか。 「(デプレシャン映画では)役者は非常に多くのことを同時にしなければならず、それを実現することで精一杯で、演技をしていることさえ忘れてしまう。そうやって演技を意識しないことで、自分の役柄に属するなんらかの真実を体現できるのです。アルノーは『そのラインに立ってペンを取り、煙草を取って、あの場所に行ってください』といった、具体的で細かい指示を出します。またアルノーは多くのテイクを重ねます。20テイクも撮影すると、役者は監督の指示を肉体的には忠実に再現できなくなりますが、まさにその瞬間にカメラになにかをつかみ取らせることができるのです。それがアルノーのやり方です。面白いと思うのが、その関係は映画『Jimmy.P』の2人の男の関係に似ているのです『私はジミーがインディアンだから助けるのではなく、私のできる限りのことをする』。それはアルノーの役者に対する態度でもあります。いわば共謀関係です」 『Jimmy.P』は第二次世界大戦時にフランスの戦地に出向き、トラウマや頭痛、聴覚障害など原因不明の病に侵されカンザスの軍事病院に送り込まれたインディアンの男(ベニチオ・デル・トロ)が精神的苦境を脱するのを手助けする、フランス人人類学者兼精神分析医(マチュー・アマルリック)の取り組みを描いたストーリー。つまりデプレシャンという監督は、俳優に寄り添い、あらゆる方法で俳優自身に内在するキャラクターを引き出そうとする、分析医のような存在なのかもしれません。*3 『Jimmy.P』において注目すべきは、アマルリックが従来のデプレシャン映画で演じたのとは全く違う役柄に挑んでいる点。アマルリックの言葉から推測するに、監督デプレシャンのアバターともいえる役になっているようです。デプレシャン映画で発掘された彼が、他の数々の監督作品に出演した後に古巣に帰り、どのような演技を見せるのか? デプレシャン映画におけるアマルリックの役柄がどのような変遷を辿っているのか? とても気になるところです。 蜂谷智子 編集者・ライター Facebook( http://ift.tt/1nGCiFL ) *1 http://ift.tt/1t8p5sV *2 http://ift.tt/1t8p5sX *3 http://ift.tt/1qdUBSE

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